「無常偈」と「いろは歌」
いろは歌という歌を知っていますか?
「いろはにほへと ちりぬるを」という文字を覚えるための手習い歌として古くから親しまれた歌です。
いろはにほへと ちりぬるを(色は匂へど 散りぬるを)
わかよたれそ つねならむ(我が世誰ぞ 常ならむ)
うゐのおくやま けふこえて(有為の奥山 今日越えて)
あさきゆめみし ゑひもせす(浅き夢見じ 酔ひもせず)
この歌は、平安時代に作られた七五調の歌で、一説によると弘法大師空海の作だと言われていますが、定かなことは分かっていません。
「色美しく咲く花も、いつかは散ってしまう 私たちも、いつまでも生きられるわけではない 迷いの多い人生の苦しみを今日乗り越えて悟りの境地に入り はかない夢を見ることも酔いしれることもするまい」という意味の歌。
この歌の驚くべきところは、47文字の平仮名を一度も重ねることなく、しかも意味を持たせた七五調の歌にしているということです。
さて、ここまでは、時々テレビの情報番組などで取り上げられるのですが、実はこのいろは歌は元になる詩があることはあまり知られていません。その詩は、古い仏典「涅槃経」にある無常偈という16字四句の詩です。
諸行無常 是生滅法(諸行は無常なり 是れ生滅の法なり)
生滅滅已 寂滅為楽(生滅滅しおわりぬ 寂静をもって楽と為す)
この詩をもとに日本語にしたのが「いろは歌」というわけです。無常偈をいろは歌に対応させると
諸行無常が「色は匂へど散りぬるを」、是生滅法が「我が世誰ぞ常ならむ」
生滅滅已が「有為の奥山今日越えて」、寂滅為楽が「浅き夢見じ酔ひもせず」
何となく耳にしたことがある言葉には、いろんなところで仏教の教えがもとになっているのだと知らされます。